シンガポールで、長期間社会から離れている「hidden adults(隠れた成人)」への支援が、オンラインゲームやDiscordなどのデジタル空間に広がっている。
CNAが2026年9月2日に報じた内容によると、現地の社会福祉団体は、対面での接触が難しい人とオンラインゲーム内で関係をつくり、音声通話、外出、面談、就労準備へ段階的につなげている。
支援件数と相談件数が増加
Fei Yue Community Servicesがこれまでに支援した成人の事例は約40件で、取り組みを始めた2024年当時の約20件から倍増した。
TOUCH Community Servicesが2025年に受けた、社会的に引きこもっている人に関する問い合わせは約250件で、2022年の2倍を超えた。
ただし、シンガポールにはhidden adultsの全国調査がなく、国内に何人いるのかは確認されていない。「hidden adult」に統一された臨床上の定義もない。専門家は、3~6か月にわたる社会からの離脱を主な特徴としているが、買い物には出られる人から、ほとんど自室を出ない人まで状態には幅がある。
日本語の「ひきこもり」と重なる部分は大きいが、両者を完全に同じ定義として扱うことはできない。

ゲームを接触の入口にする
Youth Guidance Outreach Services(YGOS)は、ゲーム配信、オンラインゲーム、SNS、Discordを使って若者と接触している。
YGOSの公式説明によると、Cyber Outreachは2025年1月に開始された。若者が利用しているゲームを配信し、共通の活動を通じて自然な会話と関係をつくる。継続して接触できた人は、Discord上の低負担なコミュニティへ招かれ、同世代やユースワーカーと交流する。
CNAの報道では、接触はダイレクトメッセージから始まり、音声通話や屋外での食事へ進むことがある。紹介を受けて参加した人には、孤立の程度、学校や仕事への考え、他者との交流の難しさなどを確認する簡単な質問も行う。
目的は、直ちに家から出すことではない。本人が安心できる場所で関係をつくり、次の接点を本人のペースで増やすことにある。
外に出た後も進路は自動的には決まらない
報道に登場する男性は、うつや不安を抱え、約2年間社会から離れていた。支援を受けて就職したものの、数か月前に退職し、「人生で何をしたいのか分からない」と語っている。
この事例が示すのは、就職できたことと、その後も働き続けられることは別だという点である。外出、相談、就職という一回の移動だけでは、進路上の問題が解消したとは限らない。
一方、別の当事者は30代で学び直しを始めた。社会福祉団体は、本人が外に出る準備が整った段階で、面接準備や求人の検討も支援している。
若者を扱ったCNAの関連報道では、学校外にいた若者が、民間受験者として試験を受けるプログラムに参加した例や、最初は1科目だけ学び、将来の受験を目指す計画も紹介された。学校への一律の復帰ではなく、学び直し、就労、生活の再構築を小さな段階に分けている。
支援制度には空白もある
成人は学校の出席記録から外れるため、長期欠席などを通じた早期発見が難しくなる。家族や友人から紹介されなければ、支援機関が存在を把握できない場合もある。
さらに、シンガポールではhidden adultsと家族を対象にした専用財源がないと報じられている。オンラインで最初の接点をつくれても、長期的な伴走、学び直し、職業訓練、就職後の支援まで継続できるとは限らない。
9月22日には、James Cook University Singaporeが、技術依存、抑うつ、学校・仕事の回避、ひきこもり傾向の関係を扱った研究を紹介した。二つの調査の参加者はそれぞれ182人と141人で、各要素の間に関連が確認された。ただし、この結果だけでゲームやインターネットがひきこもりの直接原因だと断定することはできない。大学の発表とYGOSの実践を合わせると、デジタル空間は孤立を深める可能性と、支援につながる入口になる可能性の両方を持つ。
重要なのは、接触できた後に何があるかである。本人が学び直し、就職、社会参加のどれを望むのかを整理し、途中で立ち止まった場合も含めて次の選択肢を組み直せる仕組みが必要となる。

