仕事をした経験がないため、採用されない。しかし、採用されなければ仕事の経験を積めない。
この問題を解消するため、英国で、ニート状態にある若者が生活給付を受けながら職場体験を行い、その後に面接へ進む新しい仕組みが始まった。
2026年9月8日、英国政府と英国小売業協会(BRC)は、18〜24歳のNEETを対象とする職場体験プログラム「Opening Shift」を発表した。
参加者は小売企業で2〜4週間の職場体験を行い、終了後に面接を受ける。企業側には40社以上が参加し、開始時点で1万1,305件の職場体験枠が表明されている。GOV.UK
仕事をしたことがない若者に、採用前の経験を提供
英国小売業協会によると、NEET状態にある若者の約6割には就労経験がない。
採用されるためには経験が必要だが、経験を積むには採用される必要がある。この循環が、若者の就労を妨げる要因になっている。

Opening Shiftは、採用選考の前に実際の職場を経験する期間を置くことで、この問題に対応する制度だ。BRC
参加対象は、イングランド、スコットランド、ウェールズに住む18〜24歳のNEETで、Universal Creditという生活関連給付を受給している若者である。
参加は任意で、地域のJobcentre Plusを通じて申し込む。
職場体験は週16〜35時間、期間は2〜4週間となる。
重要なのは、この期間が無給の職場体験であることだ。
参加者は賃金を受け取らないが、Universal Creditの受給を継続できる。必要に応じて交通費の支援も受けられる。BRC
職場体験中は、社員が1人ついて支援
職場体験では、参加者一人ひとりに「Buddy」と呼ばれる職場の支援担当者がつく。
実際の仕事を経験しながら、職場での行動、同僚との関わり方、仕事の進め方などを学ぶ。
体験終了後には面接の機会が設けられる。
ただし、これは採用を保証するものではない。英国小売業協会の実施案内では、採用面接の練習を含む仕組みとして説明されている。
企業に採用枠があれば就職につながる可能性があり、採用に至らない場合も、面接経験を得ることができる。
また、政府発表では、企業の人材登録制度への登録や、見習い訓練など別の機会につながる可能性も示されている。BRC
英国のニートは約98万人
英国国家統計局が2026年8月27日に発表した統計によると、同年4〜6月の16〜24歳のNEETは推計98万1,000人だった。
同年代の13.0%に当たり、前年同期から3万人増加している。
内訳は、求職活動を行っている失業者が39万3,000人、求職活動をしていない、または就労可能な状態にない経済的非活動者が58万8,000人となっている。国立統計局
英国政府が2026年8月に公表したNEET若者417人への調査では、84%が就労・教育・訓練のいずれかに進みたいと回答した。
つまり、NEET状態にあることと、働く意思や学ぶ意思がないことは同じではない。GOV.UK
目標は10万人の雇用、まず職場体験から
英国小売業界は、2029年までに10万人のNEET若者を小売業の仕事につなぐ目標を掲げている。
ただし、10万人の雇用は業界全体の目標であり、今回確保された職場体験枠の人数でも、採用が確定した人数でもない。
Opening Shiftについては、2026年10月14日と11月5日に、参加企業向けの実施説明会が予定されている。職場体験への紹介方法や企業側の受け入れ体制など、具体的な運用を進める段階にある。BRC
今回の制度で特徴的なのは、就職を決める前に実際の仕事を経験する機会を設けた点だ。
ニート状態にある若者が、就職できるかどうかを面接だけで判断されるのではなく、まず職場を経験し、企業側も本人の働き方を知る。
本人にとっても、仕事の内容や職場環境を経験したうえで、その仕事を続けたいかどうかを考える材料になる。
一方、職場体験が無給であること、対象がUniversal Credit受給者に限定されること、体験後の採用が保証されないことは課題として残る。
日本の「ニート」と英国のNEETは定義が完全には一致せず、今回の制度もひきこもり状態の人だけを対象にしたものではない。
それでも、長く学校や仕事から離れていた若者に対して、採用される前に仕事を経験し、その結果から次の行動を考える機会を提供するという点は、社会との再接続を考えるうえで参考になる。
出典
英国政府・労働年金省「Retailers target 100,000 jobs for young people」2026年9月8日

