保護者や地域住民からの苦情・要求を、教員個人が抱えて対応する働き方を変える動きが始まっている。
2026年10月1日、滋賀県教育委員会は「県立学校における過剰な苦情・不当な要求等の防止等に関する指針」を策定した。同日施行された改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が義務化されたことを受けた対応である。滋賀県
「教員が対応する問題」から「組織が対応する問題」へ
滋賀県教育委員会は、保護者や地域住民を教育上の重要なパートナーと位置づけ、学校側が十分に説明することを前提としている。
その一方で、学校では対応が困難な要求や、社会通念上許容される範囲を超えた言動によって、教職員の勤務環境が悪化したり、教育活動に影響したりする場合があるとしている。滋賀県
今回の指針では、「過剰な苦情・不当な要求等」に当たる条件を三つ示した。
保護者や地域住民等からの言動であること、社会通念上許容される範囲を超えていること、教職員の勤務環境などが害されることの三つである。滋賀県
具体例として、学校運営の範囲を著しく超える要求、対応が不可能な要求、暴行や傷害、脅迫、中傷、侮辱、暴言、威圧的な言動、同じ質問やメールを執拗に繰り返す行為、不退去や居座りなどを挙げている。滋賀県

相談窓口を設置、悪質な場合は警察へ
重要なのは、こうした問題を教員一人の対人対応能力に委ねないことだ。
滋賀県教育委員会は、該当する言動があった場合、教職員と学校教育環境を守るため「組織的に対応する」と明記した。
特に悪質な場合には警察へ通報する。また、防止体制として教職員向け相談窓口を設置し、教職員研修、保護者・地域住民への周知・啓発も行う。滋賀県
同様の動きは滋賀県だけではない。
岐阜県教育委員会も9月30日、カスタマーハラスメントに対して組織として防止し、発生時には毅然と対応して教職員を守るための指針を策定した。大分県教育委員会も10月1日、不当・過剰な要求と正当な要望・意見の判断基準を明確にし、全県立学校共通の対応方針を策定している。岐阜県公式ホームページ
「教員を続けられない原因」は仕事内容だけではない
教員本人が「この先も教員を続けるか」を考える場合、授業や校務だけを見ても判断材料は足りない。
保護者対応、対人関係、勤務時間、校務分掌、管理職の支援、問題発生時に個人対応なのか組織対応なのかという勤務環境も、継続可能性を左右する条件になる。
特にメンタル不調を経験した後の進路では、「教員という仕事が自分に合うか」という大きな問いだけではなく、何が負担だったのかを分解する必要がある。
教職そのものなのか。
勤務校なのか。
担当業務なのか。
保護者対応なのか。
一人で抱える組織構造なのか。
原因によって、復職、現職継続、異動、配置転換、休職継続、退職、転職という選択肢の意味も変わる。
今回の指針は、教員本人に復職や継続を勧める制度ではない。しかし、これまで個人が背負っていた負担の一部を組織側の責任として扱う方向へ勤務条件が変わった事例である。
「教員を続けるか、辞めるか」だけではなく、何が変われば続けられるのか。
教員本人の進路を考える際には、職業名だけでなく、仕事を成立させている個々の条件を比較する必要がある。
出典:滋賀県教育委員会、2026年10月1日更新。滋賀県

