親の期待に従うか、自分の意思を優先するか。
この二択ではなく、家族との関係を維持しながら、自分が生きられる場所をつくっていく。インドネシアの若者と家族を調べた研究から、そんな主体性の形が見えてきた。
2026年6月3日、『Journal of Intergenerational Relationships』に、中国系インドネシア人家庭の若者が、親や祖父母など世代をまたぐ文化的期待とどのように向き合っているかを調べた研究がオンライン公開された。Taylor & Francis Online
今回の記事は最新30日という通常の掲載基準からは外れるが、中国・日本・韓国以外のアジアを扱うため、対象地域を優先して採用した。

34人、6家族の日常を調査
研究を行ったのは、インドネシア・スラバヤのUniversitas Ciputraの研究者らである。
対象は中国系インドネシア人6家族の34人。若者だけではなく、親、祖父母、きょうだいも含まれている。
研究チームは25回の非公式な交流、18回のインタビュー、参加者自身が撮影した150枚以上の写真、36ページのフィールドノートを使い、家族の日常を調べた。Taylor & Francis Online
焦点となったのは、若者が家族から受ける文化的な期待にどう対応しながら、自分自身の主体性を確保しているかという問題だった。
「従うか、反抗するか」ではなかった
研究で確認されたのは、若者が家族の期待を単純に受け入れたり、全面的に拒否したりする姿ではない。
若者たちは文化的な期待に応えようとしながら、同時に自分自身の主体性も主張していた。
そのために複数の方法を使って家族との期待を交渉し、自分自身と家族の双方にとって生活可能な関係をつくっていたという。Taylor & Francis Online
研究者らが注目したのは、個人の主体性を家族から完全に独立したものとして捉えない点だ。
本人が自分で決めることと、家族との関係を維持することは必ずしも対立しない。
親や祖父母の価値観が存在する中で、それをどう受け止め、どこを引き受け、どこを自分で決めるのか。その調整そのものが若者の主体的な行動として捉えられている。
親の期待を「なくす」ことが自立ではない
これは、SK進路×子育て講座で扱う「親が選ぶ→本人と考え責任を渡す」という役割移行を考える材料になる。
子どもが成長すると、親がすべてを決めることは難しくなる。
一方で、18歳や20歳になった瞬間に親の期待や家族の価値観が消えるわけでもない。
進学、仕事、住む場所、結婚、家族との関わり方など、若者の選択には家庭から受け継いだ価値観が入り込む。
そこで問題になるのは、「親の期待があるか、ないか」だけではない。
親の期待がある中で、本人が自分の考えを持ち、家族と交渉できる余地があるかという点になる。
「任せる」の前に「交渉する」がある
子育てにおける権限移譲を、親から子どもへ一度に決定権を渡すことだと考えると、現実の親子関係とは合わない場合がある。
今回の研究が示しているのは、その間に「交渉」という段階が存在することだ。
親が決める。
本人と考える。
互いの期待を言葉にする。
本人が選ぶ。
その結果を本人が引き受ける。
こうした過程を通じて、親子の役割は徐々に変化していく。
研究は中国系インドネシア人6家族を対象とした質的研究であり、インドネシア全体の家庭に一般化できるものではない。また、特定の文化的・世代間関係を扱った研究である。
それでも、「親の期待から完全に離れること=主体性」と捉えない点は重要である。
親の考えを聞きながら、自分の考えも伝える。親との関係を維持しながら、最後は自分の人生として選ぶ。
子どもへの責任移譲は、親が突然手を引くことだけではない。親子で決めていた状態から、本人が交渉し、最後に自分で決められる状態へ移っていくことも、自立の一つの形となる。
出典:Arianto HO, Yulianto JE. Young Adult Children Negotiating Intergenerational Cultural Expectations: Insights from Chinese Indonesian Families in Indonesia. Journal of Intergenerational Relationships. 2026年6月3日オンライン公開。Taylor & Francis Online

