神奈川県で、ひきこもりや障がいなどにより外出や対面でのコミュニケーションに不安を感じる人が、自宅から社会との接点を持てる取り組みが一段階進んだ。
県が実施する「メタバースを活用した社会参加支援等事業」の一環として、バーチャル空間「神奈川県“つながり発見”パーク」が2026年9月4日にオープンした。運営を担うクラスターとゆずプラスの共同事業体が同日発表した。開催は2027年3月5日までとなる。
この事業は昨年度から続くものだが、今年度は重要な変更が加わった。
これまでの「安心して過ごせる居場所」に加えて、地域若者サポートステーションとの接続が強化されたのである。
「居場所」から「次の支援」へ
昨年度のパークでは、アバターを介することで、顔や声を出さなくても他者と関われる環境を提供していた。
外出そのものに負担を感じる人や、対面で人と話すことへの心理的ハードルが高い人にとって、自宅から参加できる場所を社会との最初の接点にする取り組みだった。
今年度はそこからさらに一歩進み、県内7か所の地域若者サポートステーションとの連携を強化した。
メタバース内に専用の受付カウンターを設け、毎週木曜日の15時から16時にはサポステのスタッフが入り、1対1の就労相談を行う。対象となるサポステは、働くことに悩みを抱える15歳から49歳までの人を支援している。
つまり、「オンライン上の居場所に参加する」ことと「現実の就労支援を利用する」ことの間に、新しい接続経路が作られたことになる。
人と話す前にAIアバターとも会話できる
もう一つの特徴が、対人コミュニケーションへの段階を細かくしている点だ。
空間内にはAIアバターが配置され、利用者はテキスト入力などを通じて、パークの利用方法やサポステ相談について24時間質問できる。
人と話すこと自体に強い不安を持つ人の場合、支援機関が存在していても、「相談する」という最初の行動が大きな壁になる。
今回の仕組みでは、AIアバターとのやり取りから空間に慣れ、イベントへの参加、専門相談員への匿名相談、サポステスタッフとの個別相談へと段階を上げていくことができる。ボイスチャットも必須ではなく、テキストや身振りだけでの参加も可能となっている。
相談だけでなく「滞在する場所」を残す
パークには就労相談だけが置かれているわけではない。
匿名で気持ちを投稿できる場、趣味について交流するイベント、専門資格を持つ相談員に匿名で相談できる個室、ゲームなども設けられている。
これは、参加した人すべてにすぐ就職を求める構造ではない。
まずその場所にいる。人との接点を持つ。相談する。そして必要な人は就労支援へ移る。
複数の段階を同じ空間に置いていることが特徴となる。
「支援につながる前」の空白をどう埋めるか
不登校やひきこもり経験後の進路を考えるとき、問題は支援制度の有無だけではない。
支援機関が存在していても、本人がそこへ行けなければ接続は成立しない。
特に長く自宅で過ごしてきた人にとって、「家から支援機関へ行く」「知らない支援者と対面で話す」「就職について相談する」という複数の行動を一度に求められることが、最初の障壁になる場合がある。
今回の神奈川県の取り組みは、その間に「自宅から入れる居場所」を置き、さらにその場所の中に就労支援への入口を作った。
居場所を作るだけでも、就職支援だけでもない。
家にいる状態と、次の進路を考える支援との間をどうつなぐか。
「支援の後」だけでなく、「支援につながる前」に存在する空白を埋めようとする取り組みとして注目される。
出典
クラスター株式会社「神奈川県『メタバースを活用した社会参加支援等事業』を昨年度に続き受託」2026年9月4日。

